2021
03.31

中医学の概念

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腎は、精気をため、水を主り、気を納めるという機能、すなわちそのときそのときの人間の生命現象の維持に必要な機能の他に、生殖、成長、老化、骨、骨髄等、人間の長期的な生命パターンに関する機能に密接な関係をもつ。

特に、「命門」を主るということで、人間の生命現象の活力、生命エネルギーともいうべきものを主る非常に重要な部分をもっている。例えば、退化現象の病気、先天性奇形、喘息、膠原病、高血圧症の一部、糖尿病、機能性不妊症、子宮筋腫等、必ずと言って良いくらい命門が弱い、すなわち腎虚症をもっている。だから、補腎をするだけでも、これらの病気が相当程度改善される。

心が五臓の師と呼ばれるならば、腎は五臓の根源とも呼ばれるべきもので、五臓の基礎ともみなされる最も重要な臓器である。

機能

(1)精をためる:ここでいう精は2つの意味を有する。1つは広義の精で、五臓六腑の精気に依存する。この精は、人体の成長、発育活動を維持する精微物質を意味する。もう1つは、狭義の精で、腎本体の精で、男女交接の精であり、「先天の精」と呼ばれる。これらの精は、腎気と天発(生殖機能と促進する物質)とで産出され、腎によりこの精は生成、排泄、貯蔵されるとしている。後天の精は主として脾によるが、先天と後天の精は、相互依頼の関係にある。

人間は、生後だんだんと腎精が蓄積され、青春期すなわち女子は14歳、男子は16歳前後になれば、性機能を促進する天発物質がつくられ、男子では精子、女子では卵子がつくられる。老年に至れば、腎の精気も弱まり、生殖能力も弱まる。

(2)水を主る:腎には水液代謝のバランスを主る作用がある。体内水分の貯留、分布、排泄等は、腎が閉じたり開いたりする作用による。ここでいう「開いたり」は水分の輸出と排泄を意味する。「閉じたり」は一定の水分を体内に貯蔵し、各器官の必要により、適当に水分を供給する機能を意味する。

この作用は腎陰と腎陽の機能およびその協力作用に依頼する。もし腎陽不足になると、水分排泄が不十分で、貯留の方が多くなるので浮腫がおきてくる。腎陰不足になると排泄の方が多くなるので、多尿となる、すなわち、腎陽は「開いたり」を主り、腎陰は「閉じたり」を主るということになる。

(3)気を納める:中医学では呼吸は肺が主るのであるが、吸入された気は必ず腎に納められるとされている。古人は次のように言っている「肺は気の主であり、腎は気の根である。肺は呼気を主り、腎は気を納める。陰陽相交われば、呼吸はよくバランスのとれたものとなる。

ゆえに、老人の慢性気管支炎、慢性化した気管支喘息、肺結核等は、必ず腎虚を伴っているので、肺気虚に対する治療と同時に、腎虚症の治療もしなければならない。実際、呼吸器に対する治療であまり効果がみられないときに補腎の方法をとると、劇的に好転することがよくある。著者の補腎を中心とした弁証論治で治療した気管支喘息131例の成績は著効54、有効34、好転29、軽快12、無効2例であった。現在医学で好転しにくい喘息に対し、中医治療には相当の効果を期待することができる。

(4)骨を主る。髄を生じて脳に通じる。歯は骨の余である。:腎は精を出すため、精は髄を生成する。髄は骨を養うし、また髄は骨の中に溜められているので骨髄と呼ばれる。

ゆえに、腎精が十分であれば髄も充満され、骨格も健康に成長し、堅実である。

歯は「骨の余り」とも呼ばれ、骨の成長とも見るべきで、歯の成長の度合い及び堅実かどうかは腎精が十分であるか否かによる。骨と骨及び歯は一見何の関係もないようにみえるが、中医学では非常に密接な関係にあるとみているし、また、実際の臨床上非常に重要な意義を持っている。

例えば、腎虚証(喘息)のため、発育成長の遅れた子供の身長が補腎することにより著しく成長したり、いままで虫歯の多い子供が、補腎(六味丸)の治療をすると、不思議に歯が丈夫になったりする。

近年、中国での研究によると、骨折患者に補腎をすると、骨の増殖が促進され、治療期間が短縮されることが確認されている。また、腎は髄を生じるという作用を応用して、各血液疾患(再生不良性貧血、顆粒細胞減少症等)に対し補腎をすることにより、非常に好転した例が多く報告されている。

骨髄はまた脊髄をも含み、脊髄は脳に通じる。脳はまた「髄海」とも呼ばれている。それゆえに、中医学においては、人々の精神活動は、心の他に腎が密接に関与しているとみている。実際、健忘症、不眠、智力減退に、補腎をすることにより好転することはよくある。

(5)腎は耳に開竅し、二陰を主る:腎の精気は耳に通じる。ゆえに、聴覚と腎気の盛衰とは密接な関係にある。器質的病変のない難聴、耳鳴等の大部分は補腎が必要となる。実際には、難聴の多くの場合、肝も干渉しているので、肝の治療も必要である。

二陰は、前・後陰を指し、前陰は生殖、排泄を、後陰は排便機能を指す。尿の貯蔵と排泄とは、もちろん膀胱がするのであるが、その原動力としては、主に腎陽の気化機能に依頼している。気化はガス化ということではなく、ある臓器の機能活動を指している。それゆえに、腎陽不足になると、頻尿、小便失禁、遺尿、陽萎(インポテンツ)等が起こる。

大便の排泄も、主として脾と大腸がするのであるが、その原動力は腎陽に依頼している。ゆえに、腎陽不足になると、下痢したり、便秘したり、排便異常が起こる。補腎薬を投与すると、便秘が治るのはこのためである

(6)腎の華は、髪にある:頭の髪は、腎精気の盛衰と密接な関係にある。古来、髪は「血之余」と呼ばれ、血と精は相互に依頼する関係にある。

腎精旺盛ならば、髪はツヤツヤして光沢があり、色も黒く、適当に潤っている。子供で、髪が茶色がかり、細く、カサカサして渇き、密生していないのは、腎虚の証拠である。腎は骨を主るのであるから、このような子供は発育が悪く、虫歯も多い。

(7)命門について:命門は中医学の特徴的な考え方であり、東洋医学の真髄とも言えるべきものであり、「生命活力」または「生命エネルギー」とも解釈されるものである。生命活力-命門-を腎という具体的な臓器に抱合させ、臨床治療に応用し、一定の効果をあげている。

命門の部位について、たくさんの異論がある。左腎右命門、両腎の中間、両腎の上部等色々言われているが、元来、中医学の臓腑は、解剖学そのものではなく、主として、その実体を含めて機能的に解釈しているので、命門についても腎にあると単純に理解したほうがいいと思う。

また、命門の生理現象についても古来からいろいろの説がある。

a)五臓六腑の「本」であり、十二経の「根」であり、人間生命の根本である。

b)腎陰は水に属し、すなわち「真陰」である。腎陽は火に属し、すなわち「真陽」である。命門は生命の根本的動力(真陽)と、生命の根本物質(真陰)の総合体である。すなわち、腎と命門は同一体である。

そのほか、いろいろの学説があるが、だいたい上述のものと理解すればよいと思う。

命門には、生命力とも解されるべき「命門火」または「命火」というものがある。すばわち、メラメラと燃えあがる生命の火である。これが五臓六腑十二経の生命活動の原動力となるのである。「元気」の根本ともされている。

(8)腎陰と腎陽について:中医学では、臓象を論じる時、腎陰、腎陽という言葉がよく使われている。また、単に陰虚とか陽虚とかいう場合は、この腎の虚陰、陽虚を指している。人体の各臓器に滋養作用する物質を「腎陰」と呼び、人体隂液の根本であり、「元陰」とも「真陰」とも呼ばれることもある。

腎は水を主どり、五臓六腑の精を受け、またこれをためる

すなわち、腎陰を定義付ければ、腎陰は人体の生殖、成長、発育を促し、靭帯を構成している精、血、津液および人体の生命現象を維持する基礎物質である。

各臓器が腎陰の滋養を失うと、いろいろな病変を起こす。

例えば、肝の場合、肝陰虚、肝陽亢盛、はなはだしい場合は肝風を引き起こし、中風につながる。

心の場合、腎陰の滋養を失うと、心腎両虚、心腎不交、心火上亢となる。

肺の場合、肺腎両虚となり、乾いた咳、潮熱、昇火(虚火上亢のこと)となる。

脳の場合、眩暈、耳鳴りが出てくる。また、各臓器の隂液が不足してくると、結果的には腎隂不足となる。このように、悪循環を繰り返し、腎隂はますます虚してくることになる。「虚火上亢」の状態はいよいよ強くなり、治療上、外邪を抑える清熱(すなわち消炎)のほかに、「補隂」を強力に進める必要がある。

各臓器の生理活動を推し進める作用(エネルギー的な観念)そのものを「腎陽」と呼び、「元陽」とも「真陽」とも呼ばれることがある。腎陽虚となると、各臓器の「生理活動力」が不足となってくる。

例えば、肺が腎陽の推し進めてくれる活力を失うと、肺自体の機能も弱くなり、ゼイゼイしたり、呼吸困難となり、「腎不納気」の状態となる。すなわち喘息の状態である。

心が腎陽の鼓動力を失うと、心悸亢進、胸苦しい、チアノーゼ等の心陽不足の症状を呈する。

腎自体が腎陽不足になると、インポテンツ、遺精、腰や背に力が入らなくなったり、うずいたりする。

腎陰虚がさらに進めば、「亡陽」といわれ、生命現象の終結が近い状態を意味する。

腎陰虚には必ず「寒象」が存在する。身体全体が寒い、顔色が蒼白く腰や背中が冷たくて痛い。熱い飲料を飲みたがり、小便が清くて長く、大便も下痢便に近く、臭いも少ない。

もし、陽が虚してはいるが、寒象が明らかでない場合は、一般的には「腎気虚」という。腎陽虚も腎気虚も同じく腎虚に属するが、基本的には同じであり、寒象があるかどうかにより区別される。

前述したように、腎虚と腎陽は、五臓六腑のなかで、非常に重要な地位を占める。腎虚は人間生命現象の基礎物質であり、腎陽はその生命「活力」である。

腎隂と腎陽は、一言でいえば「矛盾の対立統一体」である。両者はお互いに制約する関係であり、お互いに依頼し合う関係である。

一定条件の下では、相互に転化し合うし、陽は隂を生じ、隂は陽を生じ、陰陽互根の関係である。

腎陰虚と腎陽虚は、本質的には両者ともに腎の精気不足である。腎陰虚のときは、陰陽のバランスが崩れて腎陽亢盛(すなわち陰虚上亢)となるが、腎隂虚が一定程度以上に進んでくれば、陽にも影響して腎陽も虚し、陰陽両虚となる。この場合、陰陽両方とも虚しているが、陽は隂に対して、相対的に見れば亢陽している。そして、その火は「虚火」であり、「虚火上亢」となる。この火は実火ではなく、虚火であるから、治療上は瀉する対象とならず、主に補の対象となる。

(9)膀胱は腎と表裏の関係にある:膀胱は腎と表裏の関係にあり、尿を貯蔵、排泄する作用をする。中医学では、尿の来源は2つあるとみている。

1つには、飲んだ水分は部分的には、栄養物質とともに血に入り、その余りの部分が膀胱に作用する。

もう1つは、血に入った水分は気化(水分代謝とみる)により、廃物とともに膀胱に入る。

膀胱は一定程度まで尿を貯留して排泄する。これらの作用は、全く腎陽の活力により行われている。これを「腎の開闔作用(かいこう:開閉の意味で、津液・水液の代謝・排泄をする腎の機能のこと)」とも呼んでいる。ゆえに、腎陽が不足してくると、頻尿、尿失禁等がおこる。

腎病弁証

腎は腰部にあり、足少隂腎経は足心(そくしん)→足跟(そくこん;かかと)→腰背→咽喉→舌根と循行し、耳に開竅している。ゆえに、足跟痛、足心熱(足の裏の真ん中あたりが熱く感じる)、喉が腫れて痛む、口の中がカラカラに乾く、腰や背中がうずき痛む、骨の病気、歯の痛み、耳鳴り、難聴等は腎と密接に関係がある。

腎はまた、精をため、水分代謝の重要部分を担当し、気を納め、生殖、発育の根源である。よって古くより「腎は先天の本である」といわれている。このように腎の機能は非常に多彩であり、多能であり、その影響力は各臓器から五官に及ぶ。

故に腎気の盛衰は、その人の一生に強く影響される。

特に心、肺、肝、脾の四臓との関係は密接で、相互に影響を及ぼし合う。特筆すべきは、命門の存在の重要性で、臨床上、生命の予後判定の決め手ともなるものである。

実際臨床上、腎の病気は大部分が虚証であり、実証はごく稀である。

【陽虚】

1)腎陽虚

<主証>身体全体が寒く、特に四肢が寒く感じる。精神は萎縮し、消極的になる。腰膝に力が入らず、ときにはうずいてくる。目眩がして耳鳴りがする。顔色は蒼白く、早漏、インポテンツや遺精が起こる。なんとなく下痢したり、小便は清く長い。舌質は淡、嫩(どん:わかくてやわらかい)で、ときに歯痕をみる。脉は虚、または沈。

慢性腎炎、慢性腸炎、副腎機能減退、糖尿病等にみられる。

生まれつき身体の弱い人、老化現象の進んだ人、長く慢性病を患っている人、男女接合のすぎる人等が腎陽虚となりやすい。

2)腎気不固

<主証>夢精、早漏の傾向にあり、小便は清く長く、頻尿で、特に夜に多い。腰や背に力がなく、顔は淡白く、聴力減退し、舌は淡で、苔はない。脉は虚である。

ノイローゼ、尿崩症、夜尿症、糖尿病等にみられる。

腎陽虚と腎気不固の両者はほとんど同じような症状をもっている。鑑別点としては、身体の寒さと冷感で、陽虚の場合は必ず存在し、腎気不固はないか、あっても軽い。

両者ともに、性機能減退があるが、どちらかというと腎陽虚のほうが強い。一般には、腎気不固から病勢が発展すると、腎陽虚となる。

この両者を合わせて「腎陽虚弱」「腎気不固」あるいは「腎気虚」と呼んでいる。

3)腎不能気

<主証>呼吸が促進し、呼気の時間が長く、呼気の時間が短くなる(喘息の呼吸)。身体を動かすとゼイゼイする。

四肢が冷たく、寒がりである。腎陽不足になると冷汗がでるようになる。舌質は淡で、脉は虚であり、弱である。

腎不納気は腎と肺の病気であり、「上実下虚」の虚実同時に存在する形となる。しばしば、上実すなわち肺の症状が表に出て、その病態の実質、すなわち腎虚を見逃すことがあるので注意を要する。

慢性に経過した気管支喘息、慢性気管支炎、肺性心、および気管支拡張症等にみられる。

4)腎虚水乏

<主証>全身に水腫が起こるが特に腰以上にはなはだしい。尿は少なくなり、四肢は冷たくなる。腰がうずき痛む、重症になると、お腹が張って腹水がたまり、陰嚢水腫をみる。心臓がドキドキし、呼吸がゼイゼイする。咳や痰がうすく、量が多い。舌は胖で、苔は白い。脈は沈で細である。

ネフローゼ、心不全等にみられる。

腎虚水乏は、腎陽不足とともに、心、肺に及ぼした症状であり、治療にあたって、腎陽を温補するとともに、腎隂を損なわないように注意しなければならない。

【隂虚】

1)腎陰虚

<主証>身体は痩せて虚弱である。カゼをひきやすい、目眩、耳鳴りがする。健忘となり、不眠となる。腰膝がうずき、力が入らない。喉が渇き、遺精、早漏の傾向をもつ。舌は赤く、苔は少ない。脉は虚または細で、数である。

2)腎隂火旺

<主証>上述の腎陰虚の証以外に、頰が赤く、微熱があり、盗汗がある。口が乾き、喉が痛い。髪は抜けやすく、歯がぐらつく。男子は精が弱く、女子では月経が少なく遅れがちで、子供ができにくい。舌、脉は、腎陰虚と同じである。

腎陰虚は多方面の原因により、形成される。例えば、過度の男女の交接、大量の失血のため津液を消耗し、腎虚が虚する。激しい熱病または温、燥の薬を服用しすぎると、腎隂を損傷する。他の臓器の病気が腎隂に影響するなどである。また、先天性のものも少なくない。

このように、腎陰虚の発病原因はいろいろあるが、結果はかえって一致している。すなわち、具体的に現れる症状は、ほとんど同じようである。

腎隂が虚してくると、隂が陽を抑えきれず、陽元に火を生じ、亢じて陰虚火旺となる

腎は精を主る。陰精不足となれば、筋肉を十分養うことができず、身体は次第に痩せてくる。

また、脳髄を充実させることができなくなり、加えて虚火が上亢して、眩暈、耳鳴等が出てくる。初期では、耳鳴りは低く低音であるが、腎陰虚状態が長期において重症になると、完全に聾となってしまう。

耳を指で押さえると、耳鳴りが軽くなるのが、腎虚による耳鳴の特徴である。

腎は骨を主る。歯は「骨の余り」である。腎虚証になると、歯はグラグラとなり、虚火が干渉してくるので歯痛が出てくる。

腎は水を主る。

抜粋/新編・中医学 基礎編

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